Movie Review : ゴーン・ベイビー・ゴーン
愛しき者はすべて去り行く
ベン・アフレックの初監督作品で2007年公開作品で多くの映画賞を受賞しているが、日本では未公開映画。
ベン・アフレックは、アメリカの国家翼賛的な映画(アルゴなど)をいくつか撮っているので、きれいに騙されないように少し気をつけて見る必要があると思っているのだが、これはそんなに警戒しなくてもよさそう。
弟のケイシー・アフレックが主演をしている。兄とは違い、繊細な雰囲気のする俳優。
地元の町で起こった少女の誘拐事件の捜査を依頼された探偵の主人公は、地元のドラッグディーラーやギャング、昼間からバーでダラダラしている柄の悪い友人たち、誘拐された少女の麻薬中毒で運び屋の母親など関係者すべてに聞き込みを始める。
探偵というのは、誘拐の被害者遺族から依頼された場合は、警察の持つ捜査情報を得ることもできるんだそうだ。すごい制度だと思う。
日本は格差社会化しているとはいうけれど、事件捜査のために事件関係者が住んでいる地域の聞き込みをして回っても、ギャングに殴られたり拳銃を向けられたり、麻薬ディラーにすぐにたどり着くなんてことはない、だろう、きっと・・・。
おそらく日本のどこで捜査したって、こんな状況にはならないはず。
そういう意味で、日本は安全で豊かな国だと思う。
虐待を受けたり、飢えている子供がたくさんいるという事実には胸が痛いが。
そして最終的に、その少女を見つけ出すが、そこには衝撃の結果が・・・。
引退を余儀無くされた警察署長が言ったことが印象的だった。
「アマンダの将来は、もうわかっている。あのろくでなしの母親に愛されず面倒を見られず、そして同じように不本意に母親になるんだ!」
そう、生まれる場所は選べない、はず。
だから生まれついた場所で、その親の教育水準、経済的水準や周りの環境で子供の人生は全く異なる。だから人間は皆平等ではない。
生まれつきの条件を無視して、
「私は自分が頑張ったから今の自分の成功があるんだ、だから成功したのは自分のおかげだ」と結構多くの人が思っていると思う。
でも、それって間違ってますからね!
それは「ひとりよがりの成功」だと思う。
住むところで、大人の年収だって変わってくるんだから!
「年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学
生まれてから、どこに住んで、どんな人間に囲まれて、どんなものを見て、どんな行いを重ねてという過程のなかで子供は親を見ながら成長し、同じような人間になっていく。
子供の教育にお金を掛けない親や、勉強を奨励しない親に育てられれば、子供はそのように育つ。
だから、年端もいかない誘拐された少女は、母親にならって、不本意にも同じように母親になるというのだ。そんなセリフにドキッとしてしまった。
見終わった後、とにかくいろんな人と話したくなる映画です。
議論など無理にしようとしなくても、白熱した議論になるだろう。
彼女や彼氏と将来結婚しようか、真剣につきあおうか検討中の人は、この映画を一緒に見た相手の根本的な価値観が分かっていいかもしれない。
いつもはフワンとした優しげな女性でも、冷たい反応をするかもしれない。だとすると本当は心根の冷たい女なんだと思う。いつも夢中で自分の仕事を語るカッコいい男性でも、仕事以外の話題についてはさっぱり語れない男もいる、そんな人は、結婚したら会話の盛り上がらないこと間違いなし。
「ゴーン・ベイビー・ゴーン」ベン・アフレック初監督作品
Movie Review : リーガルマインド 裏切りの法廷
あるべき司法制度って?
優秀な女性検事が、無実の人を冤罪で10年以上服役させてしまい弁護士になる。
アルコール依存症となって生活が荒れ、娘の親権を失ってしまう。
法廷で怒鳴り散らした罰でプロボノ(社会奉仕活動)の一環として引き受けた殺人事件の容疑者の女性の弁護を引き受ける。
ここまでがさらっと映画の冒頭で描かれるが、すでに司法制度を信じる気になれない司法関係者の心理がよく理解できる。
そして、もし私が弁護士なり検事ならやってられないと思うはずだ。
裁判の時に、ちゃんとした証拠があって、その証拠は不当に集められたものではなければ、その人が犯人だと普通は思うだろう。
凶悪犯に罰を与えるために、正義感に燃えてその容疑者の有罪を立証するだろう。
彼女は優秀だからこそ、それができた。
そして犯人を無事に服役させたのに、後でその人が犯人でなかったという確たる証拠が出てきてしまう・・・。
「私が今まで正しいと思っていたことって・・・」
「何のためにやってきたのか・・・」
茫然自失となってしまう。
そもそも、司法システムが、機能しないのだ。
冤罪で逮捕されて投獄されている人がいっぱいいる。無実の罪で死刑になった人もいっぱいいる。
日本なんかもっとひどい。起訴されたら99%が有罪だ。間違って起訴されることなんかいくらでもあるはずなのに、ほとんどが有罪って、普通おかしくないか?
映画の主人公はアルコール中毒になってしまい法廷で怒鳴り散らしてしまい、その後娘の親権を失った。
普通の人間ならまともな精神でいられないんだろうと思わざるを得ない。
もし私なら、さっさと諦めて仕事をやめてしまうだろう。
勉強にかかったお金と時間がもったいないと思うけど、今度の私の人生には損失はないと考えて諦めるだろう。
私はこれからの人生を無駄にしないために、未来の損失を最低限にするために、司法の仕事に関わらないことをするだろう。
皆がそうすべきとは思わない。
仕事を辞められない事情もあるだろうし、理想を捨てずに仕事を続ける人もいるだろう。
日本なら「冤罪弁護士」といわれている今村核さんがいる。すごい弁護士だ。
こんな弁護士が日本にいてくれて、本当にありがたいと思う。
きっと、今村さんだって「誰かがやらねばなるまい」という思いでやっているのだろう。これはこれで本当に厳しい道だ。
映画をみれば、人を裁くことって、本当に難しいと思う。
ていうか、無理なんじゃないのか?
被害者のために、社会のために、犯人を捕まえて罰する、とうことが必要なのは分かる。
でも、どうやったら間違わず、正しくそれができるのか?
結局答えが出ないまま映画は終わってしまった。
Movie Review : アイアムアヒーロー
ゾンビ映画を日本で製作することの意味
ZQNというゾンビが日本に大量発生して、さえない日常を送る主人公がヒーローになるお話。
大泉洋の様式芸とも言えるようなオトボケキャラもいいし、長澤まさみさんもせくしー。
全体的に気軽に楽しめるいい映画だったと思う。退屈しないし。
でも、韓国映画の「新感染」を見てその考えは変わった。
「新感染」の方が面白かった。
日本で本当にゾンビが出たら・・・
一部の生き残った人たちが戦うのはわかるけど、拳銃やライフルをバンバン撃つことが出来るの?
今はみんな銃器を取り扱えるの?
普通の男女が、拳銃をもっていきなり戦える?
みんな武器の扱いに慣れた即戦力なの?
そんな即戦力なら世界中で軍人の訓練なんていらないじゃん!
っていうことをずっと考えながら映画を見てしまった私はひねくれ者か?
グループの人間関係などは面白いポイントなんだろうが、見たことあるような印象。
そういう意味では、先ほどの「新感染」は韓国でのお話なのでゾンビ退治に拳銃は一切出てこない。
それでも「新感染」は列車内での乗客とゾンビとの攻防や軍隊の出動など、面白くて刺激的な映画に仕上がっていた。
日本でゾンビ映画作るなら、それが普通じゃない?
日本には銃器は普及してないんだから・・
まあ、最初に言ったように、普通に面白い映画でした。悪くはないです。
でも「新感染」の方がより練られていて刺激的だったと思う。
まあ、原作がそうなっているのだから仕方ないか。
Movie Review : ベニシアさんの四季の庭
彼女の庭と同じようにベニシアさんの人生にも四季がある
NHKで長い間放映されてたイギリス貴族階級出身のベニシアさんの京都大原での古民家での生活を映画にしたもの。
テレビシリーズをほとんど見ている自分にとっては新しい事は特になかった。
このテレビシリーズを見たことが無い人にとっては、ベニシアさんや彼女の考えなどを知るにはよくまとまっていると思う。
ベニシアさん自身は穏やかで優しい感じの女性ですが、なかなか波乱万丈の人生を過ごしてきた。
彼女の価値感にまったく合わないイギリス貴族の生活から抜け出しインドに向かったところから彼女の冒険がスタートする。
いつも思うが、平穏無事で何も無い人生なんて無いんだな、と思う。
穏やかでいつも幸せそうにしている人ほど、実は苦難の道のりを歩んできた人だったり、実際に今大変な状況を乗り越えている最中の人だったりすることがあると思っている。
だからこそ平穏な自分を保つことができるのか。
ベニシアさんはインドから日本に来て、結婚、子育て、離婚、仕事、再婚、家族の病気、事故など想定していないことが次々と起こる。
つらい状況でも、日々の生活を丁寧に大事にすることで乗り切ってきた彼女の生き方に、日本人以上に日本を感じてしまう今の日本人がたくさんいるからこそ、彼女の言動が支持されるのだと思った。
彼女の価値観は、日本的というより普遍的という感じがするのだが。
京都大原という土地になじんでいる彼女が、より日本的に見えるのだろう。
京都は元来閉鎖的な土地柄だと思うが、ベニシアさんは古民家を再生し美しい庭を造り地域によく溶け込んでいると思う。
イギリスのかつては貴族の領地だった田園地方も閉鎖的で、同じように自然を愛し京都と少し似ていると感じた。
「特別な事をする必要はない、日常の小さな仕事に丁寧に取り組めば、幸せは感じられる。」
「忙しい時ほど、ゆっくりと丁寧に仕事をする。」
「効率ばかり考えて急いでするほど、幸せは遠ざかっていく。」
ベニシアさんからはこんな事を学んだ。
Movie Review : フラワーショウ!
もうちょっと主人公の内面世界をきちんと描いてほしい
子供のころから自然に囲まれた環境で育ち親の影響もあって、自然と共に生きてきた女性
チェルシーの由緒がるガーデニング大会に参加するまでの顛末を描くサクセスストーリー
サクセスストーリーはいいから、彼女がどう思っていて、どんな庭をつくりたいか、どんな世界を望んでいるかという本質的な部分をもってきちんと描いてほしかった。
自然の精霊たちの声が聞こえて、対話が出来る少女
人生の要所でそれらの声をヒントに難所を乗り越えてきた。
私は、スピリチュアル人間ではないが、だからといってそういう目に見えない存在を全て否定して理解しない訳ではないので、もう少しその部分をキチンと描くべき
精霊たちからどんなメッセージを受け取って、どうやって生きてきたのか
まあ、書いていてそれ自体も難しいなぁと思わざるを得ないが。
でもその題材自体がこの映画ではいちばんいいところなのに、恋愛と仕事にサクセスばかりが結果として描かれる映画となってしまった。
映画の作り方が、若い女性受けを狙った若い女性のサクセスストーリーばかり狙っていないか?
主人公の女性のキャラクターなのか、モジモジとシャイな女性なので映画の印象もボンヤリしたものになっている。
まあ、見方によってはボンヤリしたファジーな女性のファジーな体験記みたいな映画は新しいのかも。私のレビューもファジーな感じになってきた。
実際は彼女が成し遂げたことはすごいのだ。
仕事もなく一文無し、デザイナーにとっては命くらい大事なデザインブックは盗まれた。
本当に何もないところから、必要資金3000万円近く集め、庭作りに必要な大勢のスタッフを集め、インスパイアし実際に庭を作ってしまうのだから。
だけど、彼女自身がやっていることといえば、作った庭の池に塩素を2ボトルいれてしまい、庭を泡だらけにしたり、本当に妖精と会話できてたの?というへんちくりんな事をやっている。
どうみても植物のドシロウトに見えてしまったりと、ちぐはぐ。
尊大な植物学者のイケメンに恋する理由もなにも見えなかった。
彼がいないと庭が造れないというのも描かれていない。
植物学者の専門知識がないと 植物の植え方が分からないからなのか?
何度も言うが、テーマはいいのでもう少しテーマを研ぎ澄ましてキチンと描いて欲しかった。
まあ、実話がベースなので、作者が自分のイメージに合わないとNGが出るのでしょう。
そういう意味では実話ベースの映画というのも難しいもんだと思った。
見る価値がないとは、思わない。
チェルシーフラワーショウの雰囲気や主催者の王立園芸協会の尊大な態度なんかも描かれていて面白いところもある。
Book Review : こころの旅 神谷美恵子著
まるで詩を読んでいるかのような美しい文章、読みやすく理解もしやすい。
神谷美恵子さんの著作はすべて、文章の一つひとつがとても真摯に書かれていると思う。
言葉の一つひとつを真剣に選び抜いて吟味されている。
文章に格調の高さも感じる。
かといって突き放す感じではなく親しみやすい感じもする。
文章の持つ力強さを感じずにはいられない。
読んだ後の余韻も独特である。
力づけてくれると同時に清涼感も与えてくれるような文章である。
今までいろいろな本を読んできたが、NHKの100分de名著で取り上げられるまでこの著者については何も知らなかった。今まで知らなくて残念に思った。
中学か高校の頃、教科書などに出てきたらきっと夢中で読んでいただろう。
著者は、心理学の知見を丁寧に引くことで理知的に書き進めているが、同時に他の考え方もありうるということをちゃんと書き記すところが常にあり冷静な本である。
謙虚でそれでいて何事に対しても優しく寛大な姿勢が感じられる。
だからこの著者を信頼して読み進んでみようかなと思った。
参考になるのは、いろんな分野の他の人の知見を引用してくれているので、この本を1冊読めば読者それぞれがこの本で薦められた他の人の言葉や著作に広がる事ができて面白いと思う。
こころの旅、とタイトルにあるように心の問題なのだから当然答えは1つではない。
だから、これが正しいのだ、ということではないのだが、沢山の思索と検討を重ねて、これが今の最良の策ではないか、と穏やかに提案するような本であった。
珍しい雰囲気の本。
この人の本はもっと読んでみたいと思う。
Movie Review : サスペクト 哀しき容疑者
アクションがすごい!主人公が両腕を振り上げながら漢江に飛び込むシーンは大迫力!
今まであまり韓国映画を見ていなかったので今年に入って韓国映画をいろいろと見ているが哭声(コクソン)を見てからハマッてしまった。
哭声には、日本人俳優の國村隼さんがとても重要な役で出演し韓国映画祭で男優賞受賞した。
密偵とトガニに出ていた俳優さんの映画なので見てみることにした。
カーチェイスなどのアクションはあまり好きではないのだが、北朝鮮の元工作員で脱北者という設定に興味をもつ。
同じ民族でも北朝鮮から来て韓国に移り住んだ人たちは、韓国で生まれ育った人とは生活環境も違うのだろう。
同じ民族なのに、ある一時期に国内の北の方に住んでいたというだけで、南の方に住んでいた人とは違う国の国民となって、お互いが敵となる。
同じ民族なのに・・
日本が同じ運命になっていたらどうなのだろう。
静岡、山梨、富山あたりを境にして北と南に分かれて、北日本、南日本に別れてお互いを敵と想定して軍事演習を繰り返す。
男性には徴兵制度を設けて、同じ民族との戦争に備えさせる。
私は東京在住だが、親戚は西日本に多いから、親戚とは敵同士となってしまう。
ものすごい状況だ。
映画のストーリーでは、韓国側の大佐と元脱北者の容疑者にうっすらと友情が芽生えるシーンがある。
そこが私は個人的に一番好きだ。
韓国人にはやはり同胞の北朝鮮人に対する愛着があるのだなと感じてほっとする。
依然みた韓国のバラエティ番組では、北朝鮮から脱北してきた人たちが出てくるトーク番組があったが、結構軽いの内容であったりして違和感があった。
そんなに茶化していいのか、と思ったものだ。
同じ民族なのに、分断されて70年近く経つから韓国人にとってあまり身近な問題ではないのかと思っていたが、それは誤解だったかもしれない。
そんないろいろなことを考えさせる、面白く興味深い映画だった。